ラベルさん先に結論です。袋で売られているベーキングパウダーには、成分名と重量パーセントまで書く決まりがあります。今回集めた6商品は、どれも成分名のうしろに数字が並んでいました。ところがその粉を使った市販10商品の原材料名には、成分名も割合も出てきません。書かれているのは「膨脹剤」か「ベーキングパウダー」という一括名だけです。
消費者庁の一覧では、膨脹剤として一括名で表示できる添加物は41品目あります。どれを何パーセント使ったのかは、お菓子の袋からは追えません。この記事では、袋の6商品と食品の10商品を並べて、なぜ書かれる細かさが変わるのかを条文から確かめます。数字はすべて2026年9月5日に各社公式サイトで確認しました。
「ベーキングパウダーは添加物か」を調べると、袋の裏と菓子の裏で答えが違う

この言葉を見る場所は、大きく2つに分かれます。ひとつは製菓材料の売り場に並ぶ小さな袋や缶。もうひとつは、市販のお菓子やパンの原材料名です。
製菓材料の袋を裏返すと、たとえば「炭酸水素ナトリウム25.0%、グルコノデルタラクトン18.0%……」といった具合に、成分名と数字がびっしり並んでいます。ところが同じ粉を使ったどら焼きの原材料名を見ると、そこにあるのは「膨脹剤」の3文字だけです。
同じ物が入っているのに、書かれている量が違う。この違いは、メーカーが隠しているのではなく、食品表示基準という内閣府令で、書き方が別々に決まっているからです。順番に条文を開いていきます。
消費者庁の一括名の一覧。膨脹剤は14番目で、範囲は41品目あった

まず、お菓子に入ったときの決まりです。食品表示基準の別表第七に、物質名の代わりに種類の名前で書いてよい添加物が並んでいます。これが一括名です。イーストフードから始まって、14の一括名が並び、その最後にあるのが膨脹剤です。
別表第七の膨脹剤の行には、こう書かれています。
膨張剤、膨脹剤、ベーキングパウダー又はふくらし粉
「ベーキングパウダー」は商品名ではなく、膨張剤の一括名として認められた書き方のひとつでした。原材料名にこの9文字を見つけたとき、それは製菓材料の袋の名前が持ち込まれたのではなく、制度が用意した4つの言い方から1つが選ばれた、ということになります。表示名が4通りあることと、その書き分けが何を意味しないかは、ホットケーキミックス6商品を並べた記事でも触れています。
そして、どんな添加物なら一括名で済ませてよいのかは、消費者庁の通知に別添として付いています。別添 添加物1-4「各一括名の定義及びその添加物の範囲」です。ここの14番目に膨脹剤があり、定義はこうなっています。
パン,菓子等の製造工程で添加し,ガスを発生して生地を膨脹させ多孔性にするとともに食感を向上させる添加物及びその製剤
その下に、一括名で書いてよい添加物の名前が並びます。アジピン酸から始まってリン酸二水素ナトリウムで終わるまで、41品目。炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、グルコノデルタラクトンのような聞いたことのある名前もあれば、ピロリン酸四カリウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウムのように長い名前も入っています。
ただし、この41品目なら何でも一括名にしてよいのではありません。別添の書き方は「以下の添加物を膨脹剤としての目的で使用する場合」となっています。同じ炭酸水素ナトリウムでも、生地をふくらませる目的で使えば膨脹剤、酸やアルカリを整える目的で使えば別表第七の水素イオン濃度調整剤に入ります。書き方を決めるのは、名前ではなく何のために入れたかです。
この41品目のうち何が使われても、原材料名の書き方は「膨脹剤」の3文字で足ります。香料が2文字で済む仕組みと同じ形で、詳しくは香料の候補が3,000品目を超える話に書きました。調味料が別表第七で8通りに書き分けられる件は調味料(アミノ酸)の記事にあります。
袋の6商品は、成分名と重量パーセントまで書いてあった

次に、袋で売られているときの決まりです。食品表示基準の第32条第2項に、こういう行があります。
製剤である添加物 成分(着香の目的で使用されるものを除く。)及び重量パーセント 成分名及び添加物に占める成分の重量パーセントを表示する。
ベーキングパウダーは、2種類以上の添加物を混ぜた製剤です。だから袋で売るときは、何が入っているかだけでなく、それが全体の何パーセントを占めるかまで書くことになります。実際の6商品を各社の公式ページから写しました。
| 商品 | 表示している会社 | 内容量 | 原材料名(成分名と重量パーセント) | 成分の数 |
|---|---|---|---|---|
| ベーキングパウダーアルミフリー | 共立食品 | 30g(10g×3袋) | 酸性ピロリン酸ナトリウム30.0%、炭酸水素ナトリウム25.0%、d-酒石酸水素カリウム10.0%、ステアリン酸カルシウム1.0%、コーンスターチ(分別生産流通管理済み)34.0% | 5 |
| 徳用ベーキングパウダー | 共立食品 | 100g(10g×10袋) | 酸性ピロリン酸ナトリウム30.0%、炭酸水素ナトリウム25.0%、d-酒石酸水素カリウム10.0%、ステアリン酸カルシウム1.0%、コーンスターチ(分別生産流通管理済み)34.0% | 5 |
| 富澤商店ベーキングパウダー | 富澤商店 | 100g | コーンスターチ44.5%、第一リン酸カルシウム31.5%、炭酸水素ナトリウム24.0% | 3 |
| 愛国 ベーキングパウダー(アルミ不使用) | 富澤商店の販売ページ | 100g | 炭酸水素ナトリウム25.0%、グルコノデルタラクトン18.0%、酸性ピロリン酸ナトリウム15.0%、第一リン酸カルシウム10.0%、d-酒石酸水素カリウム6.0%、ステアリン酸カルシウム1.0%、コーンスターチ25.0% | 7 |
| ラムフォード ベーキングパウダー | 富澤商店の販売ページ | 113g | コーンスターチ(分別生産流通管理済み)41%、炭酸水素ナトリウム30%、第一リン酸カルシウム29% | 3 |
| 有機ベーキングパウダー 大袋105g | 風と光 | 105g | 有機コーンスターチ51%、酒石酸(有機果汁由来)25%、炭酸水素ナトリウム24% | 3 |
出どころは共立食品のベーキングパウダーアルミフリー、共立食品の徳用ベーキングパウダー、富澤商店ベーキングパウダー、愛国ベーキングパウダー、ラムフォードベーキングパウダー、風と光の有機ベーキングパウダーの各ページです。
成分の数は3から7まで開きがありました。いちばん多い愛国は7つ、いちばん少ないのは富澤商店とラムフォードと風と光の3つずつです。共立食品の2商品は、袋の大きさが違うだけで中身の数字は同じでした。
そして6商品とも、書かれた数字を足すと100になります。愛国なら25.0+18.0+15.0+10.0+6.0+1.0+25.0で100です。全部の成分と割合を出すことが決まっているので、こうなります。
成分名の書き方にも幅があります。消費者庁の別添 添加物1-1「簡略名又は類別名一覧表」を開くと、炭酸水素ナトリウムの欄には「炭酸水素Na,重炭酸Na,重曹」と並んでいます。同じ物が、袋によっては重曹と書かれます。今回の6商品はどれも炭酸水素ナトリウムという書き方でした。
並べる前は、重曹の割合がいちばん大きいと思っていました。実際は違いました。6商品のうち5商品で、割合がいちばん大きいのはコーンスターチです。風と光の有機コーンスターチは51%を占めます。愛国だけは炭酸水素ナトリウムとコーンスターチが25.0%で並びました。炭酸水素ナトリウム、いわゆる重曹は6商品すべてに入っていて、割合は24.0%から30%の間に収まっています。
市販10商品の原材料名。成分名も割合も出てこない

同じ粉が、食品に入るとどう書かれるか。中華まん、どら焼き、たい焼き、パイ、ビスケットから10商品を選んで、原材料名をメーカー公式ページから写しました。スラッシュより後ろの書き方だけを見ます。
| 商品 | 会社 | 原材料名での書かれ方 | 成分名の記載 | 重量パーセントの記載 |
|---|---|---|---|---|
| 3コ入肉まん(冷蔵) | 井村屋 | 膨脹剤 | なし | なし |
| 3コ入あんまん(冷蔵) | 井村屋 | 膨脹剤 | なし | なし |
| 3コ入 あんこたっぷり和菓子屋のどら焼 | 井村屋 | 膨脹剤 | なし | なし |
| チョコパイ | ロッテ | 膨脹剤 | なし | なし |
| エンゼルパイティータイムパック | 森永製菓 | 膨脹剤 | なし | なし |
| ビスコ 15枚 | 江崎グリコ | 膨脹剤 | なし | なし |
| たいやき | ニチレイフーズ | ベーキングパウダー | なし | なし |
| 今川焼(カスタードクリーム) | ニチレイフーズ | ベーキングパウダー | なし | なし |
| 肉まん 3コ入 | 新宿中村屋 | 書かれていない | なし | なし |
| あんまん 6コ入 | 新宿中村屋 | 書かれていない | なし | なし |
出どころは井村屋の3コ入肉まん、3コ入あんまん、和菓子屋のどら焼、ロッテのチョコパイ、森永製菓のエンゼルパイ、江崎グリコのビスコ、ニチレイフーズのたいやき、今川焼、新宿中村屋の肉まん、あんまんの各ページです。
10商品のうち、成分名を書いていた商品はありませんでした。重量パーセントを書いていた商品もありません。袋では7つの成分と7つの数字が並んでいたものが、食品に入ると3文字か9文字に置き換わります。
書き方は2通りに分かれました。膨脹剤と書いていたのが6商品、ベーキングパウダーと書いていたのがニチレイフーズの2商品です。たいやきの原材料名は「……粉末油脂)/ベーキングパウダー、乳化剤、カゼインNa」と続きます。井村屋のどら焼は「……食塩/膨脹剤、乳化剤、香料」です。別表第七の4つの書き方のうち、どれを選んでも同じ扱いになるので、会社ごとに言葉が変わります。
新宿中村屋の2商品には、膨脹剤もベーキングパウダーも書かれていませんでした。肉まん3コ入には酵母とイーストフードが並びます。生地をふくらませる方法が1つではない、ということです。
なお、山崎製パンのケーキドーナツも見に行きましたが、公式の商品ページにあるのは栄養成分表だけで、原材料名は確かめられませんでした。今回の10商品には入れていません。
成分の数が少ない袋ほど良い、という順番ではない

ここまでの表を見て、成分が3つの袋を選べばいい、と読まないでください。この記事で確かめたのは表示の決まりだけで、体への良し悪しは扱っていません。
実際、成分の数と用途は結びついています。大宮糧食はベーキングパウダーの製品ページで、アルカリ性剤と酸性剤の種類と配合量を変えることでガスの発生量とタイミングを調節すると説明し、焼き物、蒸し物、揚げ物で向く型が違うと書いています。成分が多い袋は、用途を広げるために組み合わせを増やしたものです。数が少ないほど優れている、という並びではありません。
もうひとつ。袋や商品名に「アルミフリー」「アルミ不使用」と書いてある商品がありました。ただしその言葉が書かれているのは袋にだけで、その粉を使ったお菓子の原材料名には出てきません。膨脹剤の3文字からは、41品目のどれが使われたかも、アルミという言葉が付くかどうかも見えないままです。
加えて、原材料名に書かれない添加物も別にあります。原材料名に名前が出ていないことは、使われていないことの証明にはなりません。加工助剤とキャリーオーバーは、条文で表示を免除されているからです。この免除の中身は加工助剤とキャリーオーバーを条文から読んだ記事にまとめています。
売り場で見るのは、袋の裏の2か所

やることは分けて考えると簡単です。
自分で焼くときは、製菓材料の袋の裏を見ます。そこには成分名と重量パーセントが最後まで書いてあるので、何がどれだけ入った粉なのかがその場で分かります。今回の6商品はどれもそうでした。
できあいのお菓子やパンを買うときは、スラッシュの後ろに、膨張剤か膨脹剤、ベーキングパウダー、ふくらし粉のどれかが書かれているかを見ます。あれば使われていて、なければ新宿中村屋のように別の方法で生地をふくらませています。ただし、そこから先の中身は表示からは追えません。スーパーの売り場をひととおり回った記録は近所のスーパーで無添加を探した記事に、ミックス粉14商品の書き方の違いはミックス粉を並べた記事にあります。
表示を読むのに疲れたときは、原材料名を先に公開している宅食を使えば、袋を裏返す回数を減らせます。
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よくある質問
- Qベーキングパウダーは食品添加物ですか?
- A
食品表示基準の別表第七では、膨張剤の一括名として使える書き方のひとつに「ベーキングパウダー」が挙がっています。袋で売られているものは2種類以上の添加物を混ぜた製剤にあたり、第32条で「食品添加物」の文字を書くことになっています。
- Q原材料名の「膨脹剤」と「ベーキングパウダー」は違うものですか?
- A
同じ一括名の別の書き方です。別表第七には「膨張剤、膨脹剤、ベーキングパウダー又はふくらし粉」と4つ並んでいます。今回の10商品では、井村屋やロッテなど6商品が膨脹剤、ニチレイフーズの2商品がベーキングパウダーでした。
- Q「膨脹剤」と書いてあれば、何が入っているか分かりますか?
- A
分かりません。消費者庁の別添 添加物1-4では、膨脹剤の一括名で書ける添加物が41品目あります。そのうちどれを何パーセント使ったかは、原材料名には出てきません。今回の10商品で成分名まで書いていた商品はありませんでした。
- Q袋のベーキングパウダーに並んでいる数字は何ですか?
- A
重量パーセントです。食品表示基準の第32条第2項で、製剤である添加物には成分名と、添加物に占める成分の重量パーセントを書くことになっています。今回の6商品は、書かれた数字を足すとどれも100になりました。
まとめ:袋には成分と重量パーセント、お菓子には一括名だけ

制度と表示を突き合わせて出た答えは1つです。ベーキングパウダーは、袋で売られているときは成分名と重量パーセントまで書く決まりなのに、その粉がお菓子に入ると一括名のひと言だけに戻ります。書かれる細かさを決めているのは中身ではなく、売られ方でした。
袋の6商品は3つから7つの成分と、足すと100になる数字が並んでいました。食品の10商品は、成分名も割合も1つも書かれていません。一括名で書ける添加物は41品目あるので、その言葉の内側は表示からは追えないままです。
明日やることは1つ。製菓材料の袋を1つ裏返して、成分名のうしろの数字を見る。その数字が、お菓子の原材料名では消える部分です。
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