ラベルさん先に結論です。「イーストフード不使用」と書けるかどうかを決めていたのは、安全性ではなく表示のルールでした。食品表示基準の別表第七は、18品目の添加物を「イーストフード」という4文字にまとめて書いてよいと定めています。この18品目を避ければ、その4文字は原材料名に出てきません。出てこなければ「不使用」と書けます。
そして2019年6月、この強調表示はパン業界の自主基準で自粛になりました。2022年3月には消費者庁がガイドラインを出し、不使用表示の線を引き直しています。この記事では制度の原文を読み、市販16商品の原材料名をメーカー公式ページから写して並べます。数字はすべて2026年9月5日に各社公式サイトで確認しました。
イーストフードの4文字に入るのは18品目

消費者庁の通知の別添「各一括名の定義及びその添加物の範囲」に、イーストフードの項があります。定義の1文と、そこに並ぶ物質名を写しました。原文にあるのは18品目です。
別添 添加物1-4(東京都保健医療局が掲載する通知の別添)は、イーストフードをこう定義しています。
パン,菓子等の製造工程で,イーストの栄養源等の目的で使用される添加物及びその製剤
そして「以下の添加物をイーストフードの目的で使用する場合」として、次の物質名が並びます。
| グループ | 物質名 |
|---|---|
| 塩化物 | 塩化アンモニウム/塩化マグネシウム |
| グルコン酸塩 | グルコン酸カリウム/グルコン酸ナトリウム |
| カルシウム | 酸化カルシウム/焼成カルシウム/炭酸カルシウム/硫酸カルシウム |
| 炭酸塩 | 炭酸アンモニウム/炭酸カリウム(無水) |
| 硫酸塩 | 硫酸アンモニウム/硫酸マグネシウム |
| リン酸塩 | リン酸三カルシウム/リン酸水素二アンモニウム/リン酸二水素アンモニウム/リン酸一水素カルシウム/リン酸一水素マグネシウム/リン酸二水素カルシウム |
合わせて18品目。このうち1品目だけ使っても、10品目使っても、原材料名に書かれるのは「イーストフード」の4文字です。どれを使ったかは表示に出てきません。
この書き方を一括名といいます。同じ別添には一括名が14種あり、イーストフードはその1番目です。仕組みの全体は香料とは?表示は2文字、候補は3,000品目超で整理しました。イーストフードの場合、候補は3,000ではなく18品目。14種の一括名のなかでは、候補の数が少ないグループに入ります。
同じ物質でも、目的が変わると書かれる名前が変わります
18品目のなかには、他の一括名にも出てくる物質があります。同じ別添を見ると、炭酸カルシウム・リン酸三カルシウム・リン酸一水素カルシウムはガムベースの範囲にも入っていて、炭酸カリウム(無水)はかんすいの範囲にも入っていました。
別添の書き方は「以下の添加物を◯◯の目的で使用する場合」です。物質が決めているのではなく、何のために使ったかで、原材料名に出る4文字が変わります。パンの生地で酵母の栄養にするなら「イーストフード」、ガムの基材なら「ガムベース」、中華麺のかんすいなら「かんすい」。袋に書かれた言葉から物質をたどれないのは、この決まりのためです。
市販16商品の原材料名を並べました

食パン・食事パン10商品と菓子パン6商品の原材料名を、敷島製パン(Pasco)とイオン(トップバリュ)の公式ページから写しました。スラッシュ(/)より後ろ、または添加物の欄が何品目あるかで並べ、イーストフードの4文字があるかを別の列にしています。
| 商品 | 種類 | 添加物 | イーストフード |
|---|---|---|---|
| Pasco 超熟 | 食パン | 0品目 | なし |
| Pasco 超熟山型 | 食パン | 0品目 | なし |
| Pasco 超熟ロール | 食事パン | 0品目 | なし |
| Pasco 麦のめぐみ 全粒粉入り食パン | 食パン | 0品目 | なし |
| Pasco 低糖質ブラン食パン | 食パン | 3品目 | なし |
| Pasco やわらか豆乳食パン | 食パン | 3品目 | なし |
| Pasco 国産小麦 白い食卓ロール | 食事パン | 4品目 | なし |
| トップバリュ ベーカーズアンドベーカリー 朝の定番食パン | 食パン | 5品目 | あり |
| トップバリュ しあわせのもっちり仕込み ハーフ | 食パン | 6品目 | あり |
| トップバリュ しあわせのもっちり仕込み 山型食パン | 食パン | 6品目 | あり |
| トップバリュ つぶあんパン | 菓子パン | 6品目 | あり |
| トップバリュ カスタードクリームパン | 菓子パン | 10品目 | あり |
| トップバリュ チョコクリームパン | 菓子パン | 11品目 | あり |
| トップバリュ ピーナッツクリームパン | 菓子パン | 11品目 | あり |
| Pasco さつまいもどーなつ | 菓子パン | 12品目 | あり |
| Pasco やわらか安納芋ロール | 菓子パン | 16品目 | あり |
表がそのまま答えになりました。菓子パン6商品は、6商品ともイーストフードが書かれています。食パンと食事パンの10商品では、書かれているのは3商品だけでした。
いちばん上のPasco 超熟の原材料名は、こうです。
小麦粉(国内製造)、砂糖、バター入りマーガリン、パン酵母、食塩、米粉、醸造酢、(一部に小麦・乳成分を含む)
スラッシュがありません。敷島製パンの商品ページに載っているのは食品の名前だけです。ここでいう0品目は、加工助剤とキャリーオーバーには表示の免除があるため、あくまで袋に印刷されていないという意味になります。免除の中身は加工助剤とキャリーオーバーの記事にまとめました。
いちばん下のPasco やわらか安納芋ロールは、スラッシュより後ろが16品目です。
トレハロース、加工デンプン、乳化剤、ソルビトール、グリセリン、グリシン、酢酸Na、香料、増粘剤(アルギン酸エステル、ジェランガム)、イーストフード、保存料(ソルビン酸)、甘味料(ステビア)、着色料(カラメル、カロチン)、pH調整剤、ビタミンC、酸化防止剤(ビタミンE)
ここで目に付くことが1つあります。増粘剤にはアルギン酸エステルとジェランガム、着色料にはカラメルとカロチンと、中身の名前が付いています。イーストフードにだけ何も付いていません。用途名を書く決まりのある添加物と、一括名だけで済む添加物の違いが、1行のなかに並んで出ています。
トップバリュの添加物情報でも、イーストフードだけ中身が出てきません
イオンは商品ページの下に「添加物情報」という表を置いていて、用途ごとの物質名まで公開しています。カスタードクリームパンの表を写すと、こうなっていました。
| 添加物用途 | 公開されている物質名 |
|---|---|
| 乳化剤 | グリセリン脂肪酸エステル、レシチン |
| 糊料 | 増粘多糖類(キサンタンガム、グァーガム、タマリンドシードガム)、アルギン酸エステル |
| 保存料 | ソルビン酸カリウム |
| 日持向上剤 | 酢酸ナトリウム、氷酢酸 |
| 酸味料 | クエン酸 |
| 着色料 | カロテノイド、ビタミンB2 |
| イーストフード | イーストフード |
物質名の欄に、同じ言葉がもう一度入っているだけでした。今回そろえたトップバリュ7商品の添加物情報は、7商品ともこの書き方です。乳化剤や糊料は物質名まで出るのに、18品目のうちどれを使ったかは、公式ページを開いても分かりませんでした。
「不使用」と書けた仕組みを、3社が公式に説明しています

山崎製パン・フジパン・神戸屋の3社は、それぞれ自社サイトにこの表示についての文章を公開しています。3社が何と書いているかを、そのまま引きます。順番は公開された日付の順です。
山崎製パン(2019年3月26日)
山崎製パンのお知らせは、中央研究所で市販品の成分分析を行ったとしたうえで、こう書いています。
「イーストフード、乳化剤不使用」等の強調表示のある食パンや菓子パンは、イーストフードや乳化剤と同質、あるいは同一の機能を有する代替物質を使用して製造された食パンや菓子パンであり、添加物表示義務は回避できますが、実際はイーストフードや乳化剤を使用して製造された食パンや菓子パンと何ら差のあるものではありません。
同じページには、イーストフードの働きと「添加物表示義務を回避する技術について」という項目も置かれています。同社は、この強調表示を「不適切な表示であり、直ちに取り止めるべきだと考えています」と結んでいます。
一般社団法人 日本パン工業会(2019年6月20日)
業界団体は自主基準を作りました。基準の本文は2行です。
イーストフード、乳化剤について、消費者に誤認を与えるおそれのある「不使用」「無添加」等の強調表示は自粛する。
同じページには、2018年10月に消費者庁表示対策課から日本パン公正取引協議会へ情報提供があり、「包装食パンの表示に関する公正競争規約」に照らして対処するよう求められたことも書かれています。自粛は業界が自分から言い出した話ではなく、規約に照らした指摘が先にありました。
フジパン(2019年7月1日)
フジパンのお知らせによると、同社は2016年以降、問い合わせに応えて食パンと食卓ロールを中心に原材料配合を見直し、本仕込シリーズとネオシリーズに「イーストフード、乳化剤不使用」の表示を進めてきました。そのうえで工業会の見解を受け、2019年6月から包装の強調表示を順次外しています。
現在、本仕込食パンをはじめ「イーストフード、乳化剤不使用」等と表示をしている商品については、今後も、配合・製法に変更はなく、取り組みを継続して参ります。
同じお知らせには、菓子パンなどには使用しているとの一文も添えられています。包装から文字が消えたことと、中身が変わったことは、フジパンの説明では別の話として書かれています。
神戸屋
神戸屋のQ&Aは、いまも「イーストフード・乳化剤無添加」の取り組みを掲げているページです。
神戸屋の「イーストフード・乳化剤無添加」商品は、食品衛生法で定められた食品添加物である「イーストフード」「乳化剤」を原材料に一切使用せずに製造しております。また、食品表示基準に則り、キャリーオーバー又は加工助剤としても原材料に使用しておりません。
1994年からの取り組みだと書かれています。イーストフードについては「イースト菌を育てる栄養分です」「大量生産する時に大きな効果を発揮します」と説明されていました。キャリーオーバーと加工助剤にまで触れて書いているのは、3社のなかでは神戸屋だけでした。
もう1社、敷島製パンもよくあるご質問で、表示をやめた理由に触れています。同社は、パッケージ裏面の原材料名欄に「イーストフード」「乳化剤」の表示がなければ使用はないとしたうえで、2019年から工業会の自主基準に沿って表示を取りやめたと答えています。
消費者庁のガイドラインが、2022年に線を引き直しました

消費者庁は2022年3月30日に食品添加物の不使用表示に関するガイドラインを公表しました。不使用表示を10の類型に分けたもので、パンの話に当たるのは類型4と類型5です。原文の見出しを写します。
| 類型 | 原文の見出し |
|---|---|
| 類型4 | 同一機能・類似機能を持つ食品添加物を使用した食品への表示 |
| 類型5 | 同一機能・類似機能を持つ原材料を使用した食品への表示 |
類型5の本文には、具体例が2つ挙げられています。2つ目はこうです。
例2:乳化作用を持つ原材料を高度に加工して使用した食品に、乳化剤を使用していない旨を表示
同じ働きの原材料で置き換えたうえで「使っていない」と書く形が、そのまま例に採られています。ガイドラインは「不使用表示を一律に禁止するものではない」とも明記していて、事業者が自己点検に使う目安として作られました。見直しの期限は2年程度(令和6年3月末)と書かれています。
ガイドラインの冒頭には、作られた理由も書かれています。食品表示基準の第9条は、実際より著しく優良または有利だと誤認させる表示、義務表示の内容と矛盾する表示、内容物を誤認させる表示を禁じています。ただし、どこからがそれに当たるかまでは決めていません。そこで、事業者が自分で点検するための目安として10類型がまとめられました。
ここは正直に書きます。ガイドラインの原文に「イーストフード」という語は出てきません。名指しされているのは乳化剤だけです。ただし類型4と類型5が想定している形は、山崎製パンが2019年に書いた「同質、あるいは同一の機能を有する代替物質」と重なります。10類型の全体像と、2024年4月からの読み方は無添加とは?法律に定義はないで整理しました。
並べると、こういう順番になります。
- 2018年10月 消費者庁表示対策課から日本パン公正取引協議会へ情報提供
- 2019年3月26日 山崎製パンが見解と分析結果を公開
- 2019年6月20日 日本パン工業会が自主基準を作り、強調表示を自粛
- 2022年3月30日 消費者庁が不使用表示のガイドラインを公表
- 2024年3月末 ガイドラインに沿った表示見直しの目安
売り場から「イーストフード不使用」の文字が減ったのは、この5行のあいだの出来事でした。どの段階でも、安全性の評価が変わったという話は出てきません。
品目が少ないほど良い、という順位ではありません

16商品を品目数で並べましたが、上下は安全性の順位ではありません。今回の並べ方には前提が3つあります。どれも表示の話です。
1つ目。一括名は中身の数を表しません。イーストフードは表示のうえでは1品目ですが、18品目のうち何品目を使ったかは書かれていません。1品目かもしれないし、5品目かもしれない。同じことが乳化剤にも香料にも言えます。
2つ目。0品目は「表示に出ていない」という意味です。加工助剤とキャリーオーバーは表示が免除されるので、原材料名が短い商品でも、製造の途中で何も使われていないとまでは言えません。
3つ目。公式に原材料名が載っていない商品は、今回の16商品に入れていません。山崎製パンの商品ページは栄養成分表とアレルゲンまで、フジパンの商品一覧も栄養成分値とアレルゲンまでで、原材料名の記載がありません。セブンプレミアムの商品ページも同じでした。3社の食パンについては、公式サイトでは確かめられませんでした。袋の裏面を見るしかありません。
菓子パンの品目数がどうしても多くなる理由は、パン生地ではなく中身にあります。今回の菓子パン6商品でも、糊料・保存料・着色料はクリームやあんに使われていました。同じ見方は体に悪い菓子パンランキングでも出ています。食パンのやわらかさが何で作られているかはふんわり食パンの記事に書きました。
売り場で見るのは、原材料名のスラッシュの後ろ

やることは2つです。今回の16商品は、この2つだけで上下に分かれました。
- 袋を裏返して、原材料名のスラッシュ(/)より後ろを見る。「イーストフード」の4文字があるかどうかは、そこで分かります
- 表面の強調表示ではなく、裏面の一括表示欄を見る。ガイドラインの類型10は、表面の文字が大きすぎて裏面を見る妨げになる形を挙げています
そのうえで、袋に「不使用」と書いていないことが、その添加物を使った証拠になるわけでもありません。日本パン工業会は自主基準のページで、強調表示をしていない食パンや菓子パンにはイーストフードや乳化剤を使用しており、その旨を添加物表示欄に記載していると書いています。読むのは表面ではなく裏面、で通ります。
パン屋で買う場合は話が変わります。その場で作って売る商品には原材料名の表示義務がないためで、経緯は無添加のパンはどこで買える?にまとめました。
裏返す手間ごと省きたいなら、注文する前に原材料名を公開している宅食を選ぶ方法もあります。スーパーで買い物をしながら添加物を減らす順番は無添加はスーパーで買えるのかに書きました。
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よくある質問
- Qイーストフードとは何ですか?
- A
食品表示基準の一括名の1つです。消費者庁の通知の別添では「パン,菓子等の製造工程で,イーストの栄養源等の目的で使用される添加物及びその製剤」と定義され、塩化アンモニウムやリン酸三カルシウムなど18品目が範囲に入ります。神戸屋は自社サイトで「イースト菌を育てる栄養分です」と説明しています。
- Q「イーストフード不使用」の表示はどうしてなくなったのですか?
- A
2019年6月20日に日本パン工業会が自主基準を作り、誤認を与えるおそれのある強調表示を自粛すると決めたためです。同会のページには、その前年の2018年10月に消費者庁表示対策課から日本パン公正取引協議会へ情報提供があったことも書かれています。
- Q表示がなくなった商品は、いまは使っているということですか?
- A
敷島製パンはよくあるご質問で、パッケージ裏面の原材料名欄に「イーストフード」「乳化剤」の表示がない場合は使用がないと答えています。フジパンも、強調表示を外したあとも配合と製法に変更はないとお知らせに書いています。確かめる場所は表面ではなく裏面の一括表示欄です。
- Q18品目のうちどれが使われているかは分かりますか?
- A
原材料名からは分かりません。一括名は物質名を書かなくてよい書き方だからです。イオンは商品ページで用途ごとの物質名を公開していますが、今回そろえたトップバリュ7商品では、イーストフードの物質名の欄にも「イーストフード」と入っているだけでした。
まとめ:4文字を作ったのも、消したのも、表示のルールだった

調べて出た答えは1つです。「イーストフード不使用」と書けるかどうかを決めていたのは、18品目という表示の線引きでした。その線の外にある材料で同じ働きをさせれば、4文字は消えます。消えれば「不使用」と書けます。
その書き方に対して、2019年に業界の自主基準が、2022年に消費者庁のガイドラインが、それぞれ誤認という観点から線を引き直しました。今回そろえた16商品では、菓子パン6商品のすべてにイーストフードが書かれ、食パンと食事パン10商品では3商品にとどまっています。
今日やることは1つ。パン売り場で袋を裏返して、原材料名のスラッシュより後ろに「イーストフード」の4文字があるかを見る。表面の大きな文字ではなく、裏面の小さい欄です。
裏返す手間を毎回かけたくないなら、原材料名を注文前に公開している宅食から選ぶ方法もあります。
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